「麻酔科医の逆襲」「麻酔科医の逆襲への逆襲」を検証する

     ・・・・・これはだれにでもある,一つのチャンスである

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 この人の著した「麻酔科医の逆襲」と「麻酔科医の逆襲の逆襲」を読んだ。

 「麻酔科医の逆襲」では、元々それほど人気のある科でもない麻酔科であるが、ここ数年の医師不足、病院勤務状態のの激化を受けて、いよいよ数の少なくなった麻酔科医が、麻酔の請負業を専門的に始め、すごい年収を得ている者もいる、という話である。

 さらに「麻酔科医の逆襲の逆襲」では、そんなに麻酔科医が足りないのであれば、気の利いた看護婦を准麻酔科医にしたらどうか、という話である。

【断 久坂部羊】麻酔科医の逆襲

  最近、病院に所属しないフリーの麻酔科医が増えている。医療機関と個別に契約して、手術のときだけ麻酔を請け負うのだ。これだと自分の予定を優先できるし、休みも取りやすい。当直もないし、緊急手術にも応じなくていい。それで年収が5000万を超える者も少なくないという。

 先日、大阪府下の公立病院で、麻酔科の常勤医を募集したが、年収は3500万円だった。他科の医師の倍以上の額である。フリーの麻酔科医を基準にするとそういう額になるらしい。

 今、多くの病院で麻酔科医不足のために、手術の件数が制限されている。外科医も看護師も手術室も空いているのに、麻酔科医がいないために手術ができないのだ。

 このような圧倒的な売り手市場を背景に、麻酔科医はどんどんフリーとなり、好条件の勤務を続けている。病院に残って割安の収入で、当直も緊急手術もこなす奇特な麻酔科医はいないものか。

 いや、それはむずかしいだろう。なぜなら、この状況はいわば麻酔科医の積年の恨みによる逆襲だからだ。

 私も麻酔科に所属していたからわかるが、外科医の中には麻酔科医を陰で軽んじる者も多いし、患者も直接病気を治さない麻酔科医にはめったに感謝しない。

 そういう歪(ゆが)んだ状況が、医療崩壊が進む今、麻酔科医の不足を招き、圧倒的な売り手市場を生み出しているのだ。その背景を知れば、フリーに転向する麻酔科医を、決して非難することはできない。(医師、作家) 産経新聞に掲載

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【断 久坂部羊】麻酔科医の逆襲への逆襲
2008.5.21 03:05

 前回(8日付)の当欄で、フリーの麻酔科医が増えたのは、これまで激務と軽視に耐えてきた麻酔科医の「逆襲」であると書いた。その背景には圧倒的な麻酔科医の不足があり、麻酔科医が足りないために、手術の件数が制限される病院もあることも書いた。

 この逆襲に報いる手はないのか。ひとつある。「麻酔看護師」または「麻酔技師」の資格創設である。

 全身麻酔は、かけはじめ(導入時)と、醒ますとき(覚醒(かくせい)時)にリスクが高い。手術が行われている間(維持期)は、比較的リスクが低い。にもかかわらず、多くの病院では、この期間も麻酔科医が一人張りついている。

 維持期の監視を麻酔看護師・技師に担当させれば、導入と覚醒をずらすことによって、一人の麻酔科医が複数の手術の麻酔をかけられる。こうすれば手術件数の制限は一挙に解決するだろう。

 しかし、麻酔看護師・技師の導入には、麻酔科医の猛烈な反発が予想される。たとえリスクが低くとも、もし並列麻酔で同時に問題が発生すればお手上げだからだ。

 安全絶対・現場無視のマスメディアからも反論があるだろう。看護師や技師が麻酔に関わって、安全が保証できるのか、事故が起こったら、だれが責任をとるのか等々。

 しかし、今の日本の医療は、そんな贅沢(ぜいたく)をいっておれる状況ではない。がんの診断を受けて、いつ転移するかしれない患者が大勢、手術待ちをしているとき、何を優先すべきかは明らかだろう。(医師・作家)産経新聞に掲載

 手術麻酔というのは、麻酔をかける時と手術が終わり麻酔を醒ます時が難しいのであるが、手術中の大部分の時間は器械で行っているから、そこを麻酔科看護婦みたいな人がやれば良い、というご主張であった。

 現場を知っているものなら誰でも分かることであるが、これほどナンセンスな言い草はない。この著者は医師だと言っているが、氏は臨床経験がどれほどおありなのだろうか。少なくてもあまり修羅場はくぐっていない人なのではないか。

 さて,麻酔に関して言えば確かにその通りだ。ポリクリを回れば口を酸っぱくして教えられるだろうから,医学生でも分かっている事であるが,麻酔は導入と覚醒時が難しい。麻酔事故というものもこの時に集中して起こる。それ以外の時間は器械が自動的に行っており、異常がある(血圧が下がったりすると)と、器械がピーピーと警報音を鳴らす。だからその間を管理する、「麻酔科看護婦」を作る、というご主張のようだが,笑止千万である。

 なぜなら、実際、そのようなことはもう現場ではすでにどこでもやっているのである。

 手術中の患者の状態は、麻酔科医だけが見ているのではない。手術に関わっている人、全員が診ている。手術とはそのようなものなのである。手術をしている医師はもちろん、回りの看護婦、無資格の掃除や物品を出し入れしたりする助手にいたるまで全員で病院を上げてやっている。麻酔科医が持ち場を離れることだってある。実際、手術中麻酔状態が安定しているときには、付きっきりで麻酔科医がそばに居る必要なんてない。

 だから、まずは、すでにもうどこの病院でやっていることを、今更、新しい法律と資格を作り,しかも,かなり無理のありそうな「麻酔科看護婦」だか「准麻酔科医」だか知らないがそのようなものをこしらえる必要なない、というのが私の主張だ。

 まあ、危険性を度外視したら何だって可能。例えば、今、飛行機のパイロットが不足しているというが、この解決法は、この手の考えでやれば一発だ。飛行機は離陸、着陸時が難しいが、それ以外はほとんど自動操縦である。故に、スチュワーデスで気の利いたものに、准パイロットの資格を与え、副操縦士として勤務させたらどうか、と言うのと同じである。

 このような発想が今、至る所に跋扈(ばっこ)している。医療に昨今、莫大な注意義務やアクロバット的な高い技量を要求して、それができなければ、容赦ない裁判にかけるくせに、医療を軽んじている。

 痛み止めや風邪薬はコンビニでも買えるように大幅に規制を緩和するそうだし、高血圧や糖尿病など成人病の治療は症状が安定しているから、看護婦でもある程度、処方、治療ができるようにしろ、など、そのような動きがある。

 まったく馬鹿げた動きである。医療を大事にしよう、と言いつつ、医療を軽んじ、詰まる所、例えば、痛み止めや風邪薬をコンビニでも買えるようにする動きなどというのは、病院を軽んじ、イトーヨーカドーを儲けさせようと動きである。また、そこには薬剤師よりはるかに軽い資格を作り、またぞろ、その資格を管理するような会社に官僚が天下りしようとしている。このような政策はもうたくさんである。つまり、大企業と官僚が儲けるような体制である。

 政府は、医療を大事に、とか、勤務医を保護する、とか言いつつ、それは口ばかりで、実際やっていることは、自分らの利権を露骨に増やすことに狂奔しているだけである。

 さて、話がちょっとずれたか。

 麻酔科請負業をして成功している麻酔科医。これは大変結構なことではないかと私自身思っている。

 麻酔科医からきちんと条件を明示して、それを良しとして、受け入れる病院がある。病院でも麻酔科医が居なければ手術ができなく、病因機能が立ち行かなくなるので、それを麻酔請け負い業者に請け負わせてやっていく。麻酔科医が病院で確保できなければ、こうするしかない。両者の考えが完全に一致している。誠に結構なことである。

 この動きにむしろ他科の医師も注目すべきである。たとえば、救急に関わる医師が、請負業で救急をする。麻酔科請負業ではおそらく麻酔料の何割のお金を給料としている(私はある程度、その数字を押さえているがここでは公表しない)。完全な能力給なのである。そのような考えである。

  これを救急外来に関わり、自分の行った治療行為の保険点数の何割かを給料とする。そのような働き方、雇い方もあるということだ。

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 まとめ

 私どもは企画会社なので、「麻酔科医の逆襲」「麻酔科医の逆襲の逆襲」を書いた作者兼医師殿を糾弾することが本記事の目的ではない。

 要はこのような「能力給」に基づいた働き方もあるのだ、ということを提案したい。「能力給」という考え方。これは、世間では目新しくも何ともないが、医療業界では新しい考え方。

 また、病院様におかれては、医師不足だと頭を抱えたり、おかしな仲介業者にお金を払うことばかり考えていないで、このようなことを明示して医師を求めたらどうだろうか。そのようなことをA企画は提案したい。

      

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