勤務の限界
 A企画の提唱する最低基準・・・これ以上働くことは寿命を削ること!

A企画の提唱する最低基準

 1)当直は月に4回まで(当直とはあくまでも寝当直を指す)

 2)当直も含めて月に夜の12時から朝の6時まで働かなくてはいけない日が6 - 8日以上あるような勤務態勢は命取りとなる

 もはや,医療関係者の予想通り,地域,都会を問わず地域の基幹病院の崩壊はどんどん進み,かつ,基幹病院側は医師がみんな居なくなり玉砕するまで救急を縮小するなどの有効な対策を相変わらず取ろうとはしていないようだ.
 このような病院で働く医師は今,断末魔の叫びを上げている.


 このようなきつい状態におかれると,医師も含めて人間という者はどうして良いか分からなくなる.気持ち的にパニックになりながら働くような羽目になる.事務員や看護婦など病院の下っ端の人間は間近で自分の状態を見ているので,理解や同情はしてくれるが,彼らにはどうすることもできない.ただ,彼らと話すと「分かっている奴も居るんだ」という気持ちになり,ちょっとは気分的に安らぐが...


 私も独り科の科長として,かつて,かなりきつい状況で働いていた.病院側にも言ったが,病院側から「では,どうしたいんだ」とも聞かれる.そうすると,生来,あまり口が上手でない私は,うまく自分の希望を相手に伝えられないものなのである.

 しかし,どうにもならなくなったので,「救急をやめたい」と伝えた.しかし,病院側の回答はそれはダメだ,とのこと.救急でとにかく診て,後日,他の病院に送ってくれとのこと. しかし,ある程度経験を積んだ医師ならば分かると思うが,これが一番大変なのことである.そんなことをするくらいなら,自分のところで手術などの処置をした方がずっと早い.また,当時の自分としても,腕を磨くためにその病院にいるのであり,ただのゲートキーパーをするだけなら,さっさと辞めた方が良い,という考えであった.

 とにかく,自分の許容範囲を超えるが,かつ,病院側の対応というのはこのような医師に対して冷たいので,気分的にパニックになる.結局,ふらりと医局に現れた院長をある日怒鳴りつけるように自分の窮状を訴えた.「馬鹿ヤロー」というような言葉こそ使わなかったが,「分からないのなら俺に24時間くっついて俺の仕事ぶりをみてみろ!」と怒鳴った.「救急外来を辞めるか,自分の独り科の外来を週に4日のところを3日にしろ」と絶叫した.結局,それにより,週に3日の外来体制が承認されたのであるが....
 私もそんなに乱暴な男では無いつもりだし,礼儀は失しないようにしようとは常に心がけていたのであるが,このときばかりは気持ちがパニックになっていたのだろう.

 さて,閑話休題.上の基準.今の時勢である.これ以上働いておられる方もおられるであろう.「こんなに甘い基準か」と考える方もいるかもしれない.
 しかし,私としてはこの基準を超えると相当にきつくなると考えている.これでも結構,手加減しているつもりである.言い換えると,医師が多く働く方向で基準を作ったつもりである.

 35歳以上の若い医師ならば,沢山働けるかもしれない.しかし,そのような若手の医師にとってもこれを超えるとかなりきつい苦しい勤務となる.
 12時前までなら,やっていける.しかし,夜の12時を超えた勤務となると,私の経験から言えば極端にきつくなる.午後の7時から9時まで臨時手術や処置をしても,なんてことはない.その後,仲間と一杯ビールを飲んだりするのは楽しいことでさえある.しかし,これが,夜の3時から5時までの救急の仕事となるとどうであろう.滅茶苦茶に体にこたえる.両者は同じ2時間の時間外と言うことだが,まったく違うものである.

 人間歳には勝てないものだ.最近,私も40歳代も半ばにいたり,つくづくそう思う.40歳を超えると体力がめっきりと落ちた.同級生など周りを見ても,かつての紅顔の美少年で,女にも随分ともてた奴でも,成人病でいろいろな薬を飲んでいるではないか.女にもてたかどうかは別として,皆,口々に体力が落ちたと言い,病気の話をするようになった.このような状態で,上記の基準以上に働くことは,40歳を過ぎた者にとっては,文字通り命を削って働くことになる.


 過労死・・・私はつい最近まで,過労死というものの存在を自分の頭の中で理解できないでいた.つまり,死ぬ前に病気で寝込むのではないか,とか,働けない,もうギブアップだ,と言ってしまうものではないか,と思っていた.


 しかし,知り合いの産婦人科医があるとき,心停止して亡くなった.このことは私にいろいろと考えさせられることがあった.やはり,「なぜ?」と思わざるを得ない.彼は産婦人科医としてよく働いていた.科の特殊上,夜明け前にお産をしたりすることもたびたびあった.傍目で見ていて,こんなに働けるなんて随分とタフな人だなあ,と思った.自分より10歳くらい年上であったが,自分ならとてもこんなに働けないと思った.

自分も,体力には自信のない方ではないが,ちょっと無理をするとすぐに体調を崩して寝込んだりした.それで,人間はそんなに働けるものではないな,と自分なりに感じていた.

 だからこそ,それにしてもこの先生.こんなに働くことが出来るのか,といつも思っていた.

 すると,ある日,ぽっくりと亡くなられた.この件にはいろいろと考えさせられた.過労死というものがどうも自分の中で実感できなかったので,はじめは,天命かな,とも思っていた.しかし,考えれば考えるほど,明らかに過労死というものだと思うようになった.

 改めて,人間そんなに働けるものではない.限界というものは必ずある,と自分なりに悟った.そこで,上のような基準を定めた.これは自分の経験によって考え出したものであるが,大体このようなところであろうか.

 1)に関しては厚生労働省もこれと同じ通達を出している.

 これ以上に働くことだってもちろん可能だ.ただ,それは,文字通り,寿命を削ることになるものと理解されたい.どのくらい寿命が削られるのか.これも推測だが,1回反するごとに,寿命は3日から1週間くらい削られることになるように思う.これ以上に仕事をするとすれば,それに見合った何かが自分の中できちんと見えていなければならないだろう.

 また,この基準を守るように,仕事を割り振りしたり,制限したりすることが健全な職場を作る原動力となるだろう.


 【私がこの基準をあえて提唱した理由】

  勤務環境に対して,不満を述べたり改善の要望を出したりすると,大方,「どうしいんだ?」と言われるだろう.そんなときに,このような基準で,と言えるようなものがあると,良いのかなあ,と思って提唱した.この基準を甘すぎる,という御仁もおられると思うし,逆に,こんなに働けと言うのか,きつい!と思う御仁もいるであろう.

 しかし,それはそれ.このような時代だからこそ,私としては,このような考え方もある,ということを示したかったのである.

【追加】80時間が「過労死ライン」といわれているそうだ.これに文句を付ける気もないが,私の基準の方が実態を反映しているようにも思う.

研修医の4割が「過労死ライン」の80時間を超す時間外労働

2007年05月14日

 病院で働く研修医や非常勤医の時間外労働は月平均73時間にのぼり、「過労死ライン」とされる月80時間を超す医師も4割以上いる??。病院勤務医の労働実態について、日本医療労働組合連合会がこんな調査結果をまとめた。

 昨年11月?今年3月、アンケート形式で前月の勤務について聞いた。回答したのは33都道府県の約180病院に勤める常勤医1124人(推定平均年齢42歳)、研修医130人(同27歳)、非常勤医91人(同32歳)。

 時間外労働は、常勤医の月平均60.4時間に対し、研修医73.3時間、非常勤医73.2時間。月80時間を超す時間外労働も研修医の40.5%、非常勤医の48.8%にみられた。

 一方、研修医で時間外手当を請求しているのは16.2%に過ぎなかった。「宿直は月4回以上」「当直明け後も勤務」とした研修医も、それぞれ7割を超えた。

 04年に始まった臨床研修制度では、新卒医師が自分で研修先を決められるようになり、研修に専念するため一定額の収入を保証、アルバイト診療を禁じるなど、待遇改善が期待されている。

 医労連は「新研修制度になっても、過酷な勤務は変わっていない」としている。

 

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