新春大放談 A企画が言いたいこと
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あけましておめでとうございます.今年もよろしくお願い致します.

 年も変わったので,今まで述べてきたことをまとめておきたいと思います.ごちゃごちゃしたきれい事を抜きにして久しぶりに腹を割って話をしたいと思います.

 

 まず,申し上げておきたいのは,このサイトは,本質的には医療崩壊を憂いたり,ここが駄目なんだ,と大所高所から述べることを目的としていません(時々,述べてはいますが・・・).

 どうすれば,医師が病院で働き続けられるのか.どうすれば,病院は医師を維持できるのか,現役の医師である私が,及ばずながらアドバイスしたいと思い立ち上げました.この考えは今も変わっておりません.

 病院に医師がいれば病院がそれなりに維持できます.そうすれば,その地域に住む住民も患者も幸福です.

 はっきりいって,24時間365日,何時に行っても,その専門科の医師が出てくる必要はないし,それは不可能というものだ.今は,大変な要求に応えようとして,無理を重ね,「出来ない」→「総撤退」というまことに愚かな図式が日本全国津津浦々で繰り広げられている.

 医師が総撤退された後の病院は,只の建物にしか過ぎないし,住民こそ哀れです.

 その様な愚かな図式を食い止めるのは,病院自体がものを良くわかり,病院の統治能力(ガバナス)をフルに発揮しなくてはなりません.

 それについてどうすればよいか・・・述べます.

ベテラン医師にきちんと報いよ

 ここでベテランとは,専門医を持っている医師と思って貰っても良いし,卒後10年目以上の医師と思って貰っても良い.その様な医師を粗末に扱うな,と言うことである.

 最近,研修医欲しさに,研修医にスゴイ給料を提示し,挙げ句の果てに,研修医と指導医の給料がほとんど変わらない病院も出ている.真にナンセンス.もうくだらない迎合はするな.

 はっきりいって,専門医を取る前の医師に患者を責任を持って診ることは不可能です.言葉は悪いが彼らは見習いみたなものであると言って良い.だからオレははっきり言って彼らには時間外手当も何も要らないのではないかと思う.あるいは,払うとしても,ベテランにはフルに払うとすれば,彼らには限定的なものでもよろしいかと思う.彼らにとって患者を診ることが勉強になるからだ.

 こう言うときついかもしれない.しかし,医学ってやっぱりそんなに甘い物でも簡単な物でもない.いくら良いこと言ったって,専門医を取る位のキャリアがないと患者自体が来ない.

 その代わり,ベテランにはきちんと時間外手当を払うことだ.「当直」という名目で,一晩中働かせて,1 - 2万しか出さないとかその様なことを絶対にしてはならない.また,当直も月4回を超えてはならない.そして,病院自体が不退転の決意を持って,その様なベテラン医師に年に20日程度の有給休暇を与えよう.

 このように言うと,労働基準法は,労働者誰でも適応されると言う意見が必ず出る.しかし,そんなことをやっていたら現実的に病院自体がいくらカネがあっても足りなくなる.だから,半人前の見習いに,時間外手当も何もあったものではないと言うのが,オレの本音である.

 このことは,その科のベテランの科長が,院長が,病院が,きちんとそのような専門医を取る前の医師が就業するときにきちんと申し渡さなければならない.

 納得の出来ない医師もいるであろう.そうであれば,彼らは働らいて貰わなくても良い.そのくらいピシッと病院は考えを持て.

 しかし,繰り返して言うが,ベテランにはキチンと報いよこれはごまかすな.

 ベテランがキチンとカネと休暇を貰っていれば,下の医師というのは自分がもらっていなくても,いずれ自分がそうなればいいのだから,納得もするし安心するものだ.また,若い医師というのは体力はある.また,体力に物を言わせて,技術を習得すべき時期でもある.これを逃すと,技術は習得できないで終わってしまう.こうなると悲惨で惨めである.

 とにかく若手の体力はベテランとは桁違いである.だから若い医者に関しては,このような考え方で大丈夫だと思う!

 また,患者が本当に信頼するのはやっぱりベテランの医者だ.ベテランのきちんと医者がそろっていれば,昼間の診療だけで十分病院は採算が取れる.わざわざ夜に救急外来をやらなくても良いというわけだ.また,救急外来などもともとさっぱり採算の取れない部門でもある.

* 先日の北海道新聞に,新生児ICUのことが出ていた.北海道でこれをやっているところは,札幌市立病院と釧路赤十字病院の2カ所しかないらしい.札幌市立病院は産婦人科医,小児科医15人でこれを切り盛りしているようだが,このほかに通常の一般外来もやっているそうだ.おそらく,ベテランでも3-4日にいっぺん,ICUに詰めてストレスの多い夜を送っているものと推察する.この場合,時間外をきちんと支払えば,通常の給料の3倍位になるはずだが・・・・このようなことに対して,報いろ,と強く私は言いたいのである.

*ベテランには時間外手当をきちんと払う.一方,専門医を取る前のドクターの時間外はどうするか,というのが病院マネジメントの難しいところだと思う.これは病院によって異なると思う.それはここで一口に書けるものではない.これこそ個別にお会いして話し合って考えていくものだと,A企画としては考えています.

病院は患者の交通整理をきちんとせよ(特に夜間,休日)

 夜や休日の救急外来をどうするか,これは病院にとって大きな問題である.

 最近,どう考えても行き過ぎたサービスを提供しよう,その様なサービスを受けるのが当然であるとする風潮が蔓延している.

 患者の中にはワガママなのがいて,子供を連れてきたから小児科を呼んでくれ,という輩までいる.救急外来担当の医師が診て,小児科医を呼ばなければならないものならそれは仕方がないが,患者の言うがママに小児科医を呼んでいては,小児科医が辞めてしまっていなくなる.そのような患者をどう押さえ込むか.

 まず,救急外来というものをやるのかやらないのか病院はまじめにもう一度考えろ.

 それで「やる」というのであれば,患者から「特別初診料」というものをきちんと徴収せよ.これは,合法的に認められているものだ.1-2万円くらいとってかまわないと思う.そうすれば,救急外来にかかる患者はかなりセレクトされたものになるであろう.

 この「特別初診料」は掲示さえしていれば取れるのである.万単位のカネを取れ.そして,その半分,ないし75%ほどを救急外来の担当医にくれてやれ.そうすれば,救急を担当する医師もグッと腹に力が入るだろう.

 また,そのくらいのカネで命が救われれば患者にとっても安いものだろう.

 あと,救急外来を「やらない」,というのも一つの重要な選択だ.救急外来を辞めると医師の負担が激減し,今日の医師不足はどこへやら,劇的にベテラン医師が集まったりすると言う.

 とにかく,公的病院に多いのだが,市民への訳の分からない体面を重んじて,医師に無理を強いて,挙げ句の果てにみんな辞めて,誰も医師がいなくなり,崩壊するより,昼間だけでもやっている病院,やっている科が地域にある方がずっと良いことだ.

 とにかく,この日本国の今日の現状.昼間だけでも医療というものがあれば良しとしなくてはならない.今やそこまで状況は切迫した.

*最近,住民も夜に救急外来にかかるのは控えよう.医療資源を大事にしよう,という意見もみられるが,それを地域の住民や患者に求めるのは不可能だ.仕事が忙しいから,朝から熱発している子供を夜に連れてくる親も後を絶たないだろうし,夜の方が空いているからと,夜の救急外来にわざわざ狙って来る人も後を絶たないだろう.病院はガリッと交通整理をせよ.それは病院ができることなのである.

 

今の日本.産婦人科はもう限界だ.子宮収縮剤や帝王切開で,分娩時間をコントロールせよ

 産婦人科はもう限界だ.お産の取り扱いは昼だけにして良い.

 一つの病院に4人以上産科医がいれば,24時間態勢というのが初めて可能になる.しかし,数に限りがある.ひとりの産婦人科医が1年間に扱えるお産の数はだいたい100-150件.200件だとかなりキツイ.だから4人いると,400-600件がその病院のお産取り扱い数になる.

 ただ,4人も産婦人科医を擁する病院など,例えばこの北海道内でみた場合,本当に数えるくらいしかない.日本全国でもそうだろう.

 残りは,一人か,二人でやっているということになる.このようなところで,24時間態勢で自然分娩をさせるというのは,どだい不可能.お産というのは,夜に多いものだ.

 一人か二人の産婦人科医が,どちらか当番で夜のお産に備えて待機するというのは,これはもう不可能だ.無理が多すぎる.だから,昼に子宮収縮剤を使って産ませるしかない.

 どうしても子宮収縮剤を使わないで欲しい,と患者が言うのであれば,お産が近くなったらずっと入院してもらうしかない.経済的負担,家の負担は大変だろうが,それは仕方がない.そのようにムンテラするしかない.

統計

 1000人あたりの周産期死亡率

  明治の頃 73件(産婆さんが介助して出産)  現代 1.6件(産婦人科医の管理の元,出産)

 あとは,この数字をみて患者が判断するだけである.

 近くに,多数の産婦人科医を擁する病院がある場合ある人は本当に幸福だ.神様に感謝すべきである.

 しかし,残りの大多数の妊婦.これは自然分娩はもう望めない.昼間に産まなくてはならない.子宮収縮剤を使わずに自然に産んだ方が安全は安全.しかし,子宮収縮剤がどのくらい危険かと言えば,ちょっと手元に統計はないが,そんなにベラボーに危険なわけではない.

 それより,産婦人科医の管理外で産む方がずっとずっと危険なのである(ざっと見て50倍位危険である).

 これを分かって貰った上で,好きな方を選択して貰おう.

 妊婦さんの立場に立って言えば,残念ながらもう,今の日本,贅沢は言っていられないのだ.

 あと,産婦人科医や病院の立場に立てば・・・・どうしても子宮収縮剤を使わずに産みたいという患者もいるかもしれない.出産は自費診療である.100万でも200万でも取ったら良いのではないか.これも一つのビジネスである.

 時代はそこまで急迫しているのである.

【参考図】医師の技能の成長(クリックすると図が大きくなる)

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